慢性甲状腺炎(橋本病)とは
慢性甲状腺炎(橋本病)とは
橋本病は、自分の免疫が甲状腺を慢性的に攻撃してしまう自己免疫性の病気です。
正式には慢性甲状腺炎と呼ばれます。
日本甲状腺学会の診断ガイドラインでも、橋本病は自己免疫性甲状腺炎と定義されています。
甲状腺は首の前にある小さな臓器で、体の代謝、体温、脈拍、腸の動き、気分、月経など、全身の働きに関わるホルモンをつくっています。
橋本病ではこの甲状腺に慢性的な炎症が起こり、時間をかけて甲状腺の働きが低下し、甲状腺機能低下症になることがあります。
橋本病は珍しい病気ではありません
橋本病は、原発性甲状腺機能低下症の原因として最も多い病気です。
ただし、橋本病と診断された方がすべて甲状腺機能低下症になるわけではありません。
日本甲状腺学会の診断ガイドラインでは、橋本病のうち甲状腺機能低下症になるのは約1割とされています。
つまり、抗体陽性やエコー所見があっても、すぐ治療が必要とは限らず、経過をみることも少なくありません。
橋本病で起こること
甲状腺の働きが落ちるとどうなる?
甲状腺ホルモンが不足すると、全身の働きがゆっくりになります。
代表的な症状として、疲れやすい、寒がり、体重が増えやすい、便秘、むくみ、皮膚の乾燥、眠気、気分の落ち込み、月経異常などがみられます。
日本甲状腺学会の甲状腺機能低下症診断ガイドラインでも、
- 無気力
- 易疲労感
- 眼瞼浮腫寒がり
- 体重増加
- 動作緩慢
- 記憶力低下
- 便秘
- 嗄声 など
が代表症状として挙げられています。
症状がないこともあります
橋本病は、初期にはほとんど症状がないことも珍しくありません。
健診や他の病気の採血で、TSH異常や甲状腺自己抗体陽性をきっかけに見つかることがあります。
橋本病そのものと、甲状腺機能低下症の重さは同じではないため、症状だけでは判断できません。
橋本病の診断
主な診断の手がかり
日本甲状腺学会の診断ガイドラインでは、橋本病の診断は主に次の所見をもとに行います。
1. 甲状腺のはれ
首の前の甲状腺がびまん性に腫れることがあります。
一方で、萎縮してあまり大きくならないこともあります。
2. 甲状腺自己抗体
血液検査で、抗TPO抗体や抗サイログロブリン抗体(TgAb)が陽性になると、橋本病を疑う重要な手がかりになります。
3. 甲状腺ホルモンの採血
甲状腺機能低下症を伴う場合は、一般にTSH高値、FT4低値となります。
TSHだけが高くFT4が正常な場合は、潜在性甲状腺機能低下症のことがあります。
4. 甲状腺エコー
超音波検査では、内部エコーの低下や不均一がみられ、慢性的な炎症を示唆します。
日本甲状腺学会では、こうしたエコー所見も橋本病を疑う根拠のひとつとしています。
橋本病と甲状腺機能低下症の違い
橋本病は病名で、甲状腺機能低下症は甲状腺の働きが落ちた状態を表します。
つまり、
- 橋本病はあるが、甲状腺機能はまだ正常
- 橋本病が進んで、甲状腺機能低下症になっている
この両方がありえます。
このため、橋本病といわれても、治療がすぐ必要な方もいれば、定期的な採血だけでよい方もいます。
病名だけで重症とは限りません。
橋本病の治療
基本は「足りないホルモンを補う」ことです
橋本病によって甲状腺機能低下症になった場合の基本治療は、レボチロキシン(甲状腺ホルモン薬)を内服して、足りないホルモンを補うことです。
多くの方では長期的な治療が必要になります。
すべての人に薬が必要なわけではありません
甲状腺ホルモンがまだ保たれている場合は、すぐに薬を始めず、定期的に採血で経過をみることがあります。
NIDDKでも、甲状腺機能低下症がなければ、症状や甲状腺ホルモン値を定期的に確認する方針が示されています。
またNICEでは、潜在性甲状腺機能低下症に対しては、TSH 10 mIU/L以上が3か月以上続く場合にレボチロキシンを考慮すること、65歳未満で症状がありTSH上昇が軽度の場合には治療を試すことがあるとしています。
生活面で大切なこと
橋本病そのものを食事だけで治すことはできません。
一方で、自己判断でサプリメントや極端なヨウ素制限、逆に海藻の過剰摂取を行うのは避け、定期的な採血と必要時の内服調整を続けることが大切です。
急性疾患の最中は甲状腺検査がぶれることもあるため、検査のタイミングにも注意が必要です。
橋本病で注意したいこと
一時的に甲状腺機能が変動することがあります
橋本病の経過中に、無痛性甲状腺炎を起こして一時的に甲状腺ホルモンが漏れ出し、動悸や体重減少など甲状腺機能亢進症のような時期をはさむことがあります。
その後、自然に改善したり、一時的または永続的な甲状腺機能低下症になったりします。
ほかの自己免疫疾患を合併することがあります
甲状腺自己免疫疾患は、1型糖尿病など他の自己免疫疾患がある方で見つかりやすいことが知られており、NICEでもそのような方には甲状腺機能検査を勧めています。
首の急な腫れや圧迫症状は別の評価が必要です
橋本病ではまれに甲状腺リンパ腫が背景に発生することがあり、学会ガイドラインでも鑑別疾患として挙げられています。
急に首が大きくなった、飲み込みにくい、声がかすれる、息苦しいといった症状がある場合は、早めの受診が大切です。
こんなときは甲状腺内科へご相談ください
- 健診や採血でTSH異常を指摘された
- 抗TPO抗体や抗サイログロブリン抗体が陽性といわれた
- 疲れやすい、寒がり、便秘、むくみ、体重増加などが続く
- 首の前のはれが気になる
- 妊娠中、妊娠希望、産後で甲状腺機能が心配
- すでに橋本病といわれているが、治療が必要かどうか知りたい
橋本病は、「診断がついたら全員すぐ治療」ではなく、今の甲状腺機能がどうかをみながら適切に対応する病気です。
症状がはっきりしないことも多いため、気になる場合は採血と必要な評価を受けることが大切です。
参考文献
- 日本甲状腺学会. 甲状腺疾患診断ガイドライン2024. 慢性甲状腺炎(橋本病)の診断ガイドライン, 甲状腺機能低下症の診断ガイドライン.
- NICE. Thyroid disease: assessment and management. NG145. 潜在性甲状腺機能低下症の治療適応、甲状腺機能異常の検査と評価.
- National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases (NIDDK). Hashimoto’s Disease. 治療と経過観察の考え方.
- American Thyroid Association. Hashimoto’s Thyroiditis. 患者向け解説およびホルモン補充療法.
- MedlinePlus Genetics. Hashimoto’s disease. 病態と甲状腺ホルモンの役割.
