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糖尿病とは

インスリンの働き

ブドウ糖を体内でエネルギー源として利用するためにインスリンが必要

私たちは食物から栄養を摂取して生命を維持しています。食物の成分のなかで、体のエネルギー源となるものに炭水化物、脂質、たんぱく質がありますが、多くの人はこの3大栄養素のなかで、炭水化物を最も多く摂取しています。ごはん、パン、麺類などが多く炭水化物を含む食品の代表格ですが、これらの食品を摂取すると消化によって腸の中でブドウ糖となり、小腸から吸収されて血液のなかに入ります。すると血液中のブドウ糖の量(血糖値)が高くなります。ブドウ糖は筋肉や脂肪などさまざまな細胞に取り込まれ、そこでエネルギー源として利用されるのです。血液中のブドウ糖をこれらの細胞に取り込むための鍵のような役割を果たすのが、インスリンです。インスリンが結合することで、細胞の表面にある受容体が活性化され、ブドウ糖を細胞内に入れるためのドアが開かれます。

インスリンは血糖値の上昇を刺激として膵臓で分泌される

インスリンは、私たちの体内で作られるホルモンです。インスリンは、膵臓の中にある特殊な細胞、膵β細胞から分泌されます。食事を摂ると血糖値が上昇しますが、この刺激により、膵臓はインスリンの分泌を促されるのです。健康な人の場合、食事をして血糖値が上がったとしても、この働きにより血糖値は適度な範囲にコントロールされ、過剰に増加しません。一方、空腹時のインスリンは低い値で維持されるため、ブドウ糖が筋肉や脂肪に必要以上に取り込まれることはありません。これらの作用を介して、血糖値は空腹時でも食後でもちょうどよい範囲である70 mg/dLから140 mg/dLに保たれています。

糖尿病

糖尿病の定義は「インスリンの作用が十分でないためブドウ糖が有効に使われずに血糖値が普段より高くなっている状態」です。インスリンの作用不足が、その根本の原因ですが、それには、①インスリンの分泌が少なくなるタイプと、②インスリンによるブドウ糖を筋肉や脂肪に取り込ませる作用が低下するタイプがあります。糖尿病の多くの場合では、その両方(インスリン分泌不足とインスリンの効きの低下)の異常が認められます。いずれにせよ、糖尿病ではインスリンの作用低下から血糖値が増加しますが、この血糖値の増加が、全身にいろいろな影響を与えます。

糖尿病の分類

 1型糖尿病

1型糖尿病では、膵臓からインスリンがほとんど出なくなる(インスリン分泌低下)ことで血糖値が高くなります。インスリンがなければさまざまな細胞でブドウ糖をエネルギー源として利用できなくなりますから、生きていくために、注射でインスリンを補う治療が必須となります。この状態を、インスリン依存状態といいます(表 1型糖尿病と2型糖尿病の特徴)。

2型糖尿病

2型糖尿病は、インスリンが出にくくなったり(インスリン分泌低下)、インスリンが効きにくくなったり(インスリン抵抗性)することによって血糖値が高くなります(表 1型糖尿病と2型糖尿病の特徴)。2型糖尿病となる原因は、遺伝的な影響に加えて、食べ過ぎ、運動不足、肥満などの環境的な影響があるといわれています。
2型糖尿病では、血糖値を望ましい範囲にコントロールするためには、食事や運動習慣の見直しがとても重要です。飲み薬や注射なども必要に応じて利用します。

その他の特定の機序、疾患によるもの

糖尿病以外の病気や、治療薬の影響で血糖値が上昇し、糖尿病を発症することがあります。

妊娠糖尿病

妊娠糖尿病とは、妊娠中に初めてわかった、まだ糖尿病の基準を満たすまでには至っていない血糖の上昇をいいます。
糖は赤ちゃんの栄養となり、多すぎても少なすぎても成長に影響(巨大児や、小児期〜成人期の肥満、メタボリックシンドロームなど)を及ぼすことがあります。そのため、お腹の赤ちゃんに十分な栄養を与えながら、細やかな血糖管理をすることが大切です。また血糖値が上がることで、母体にもさまざまな影響(流早産や羊水過多など)が出ることが知られています。
妊娠中は絶えず赤ちゃんに栄養を与えているため、お腹が空いているときの血糖値は、妊娠していないときと比べて低くなります。一方で、胎盤からでるホルモンの影響でインスリンが効きにくくなり、食後の血糖値は上がりやすくなります。
多くの場合、高い血糖値は出産のあとに戻りますが、妊娠糖尿病を経験した方は将来糖尿病になりやすいといわれています。

表 1型糖尿病と2型糖尿病の特徴
分類 1型糖尿病 2型糖尿病
原因 インスリンを作る膵β細胞という細胞が壊れてしまうため、インスリンが膵臓からほとんど出なくなり、血糖値が高くなる 生活習慣や遺伝的な影響により、インスリンが出にくくなったり、インスリンが効きにくくなったりして血糖値が高くなる
発症年齢 若年に多い
(ただし、何歳でも発症しうる) 
中高年に多い
症状 急激に症状が現れて、糖尿病になることが多い  症状が現れないこともあり、気が付かないうちに進行することも
体型 やせ型が多い 肥満が多い
(やせ型もいる)
治療 インスリンの注射  食事療法・運動療法、飲み薬、場合によってはインスリンなどの注射

糖尿病による合併症

糖尿病は、長期間にわたって高血糖の状態が続くことで、さまざまな合併症を引き起こします。以下が、代表的な糖尿病による合併症です。

神経障害

高血糖が神経にダメージを与え、手足のしびれや痛み、消化器系の機能障害(胃の蠕動の低下など)などが生じることがあります。

網膜症(目の合併症)

高血糖が眼の血管に影響を与えることがあります。この状態は網膜症と呼ばれ、視力の低下や失明の原因となります。

腎症(腎臓の合併症)

高血糖が腎臓の血管やろ過機能に影響を与えることがあります。腎症により尿たんぱくが出現し、腎不全の進行を引き起こす可能性があります。

心血管疾患

糖尿病は、全身の血管に影響を及ぼします。高血糖は動脈硬化を進行させ、心臓や脳の血管にダメージを与えることで、心臓病や脳卒中のリスクを増加させることが知られています。

下肢血管障害

高血糖が血管に影響を及ぼすことで、下肢の血液循環が悪化することがあります。これにより四肢、特に足の血行不良、潰瘍、壊死が発生しやすくなります。

感染症

高血糖が免疫機能を低下させるため、皮膚や粘膜の感染症(特に皮膚感染症や尿路感染症など)が頻繁に起こりやすくなります。

これらの合併症は、糖尿病のコントロールが不十分な場合によりリスクが高まります。適切な血糖管理、血圧管理、脂質管理などの総合的な治療アプローチが必要です。また、糖尿病の合併症は、早期に対処することが重要です。定期的な医師の診察と適切な管理を行い、健康な生活習慣を維持することで、合併症のリスクを最小限に抑えることができます。

 

参考
  • 日本糖尿病学会. 糖尿病診療ガイドライン2019. 南江堂, 2019
  • 日本糖尿病学会. 糖尿病治療ガイド2022-2023. 文光堂, 2022
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