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Renal Replacement Therapy(RRT)に論文が掲載されました

[2023.10.27]

2023年9月19日、Renal Replacement Therapy(RRT)に、当院代表医師の坂井が1st authorとして執筆した論文が掲載されました。
とても光栄なことに、RRTの編集委員が選ぶ、Editor's Featured articleにも選定されております。

figure 2

RRTとは

主に腎代替療法(透析療法など)に関連する研究を扱う、査読付きのジャーナルです。

背景

心臓の出口に大動脈弁という弁が付いていますが、これが加齢などにより変性し狭くなる大動脈弁狭窄症(AS)という病気があります。
ASは、病気が進行すると息切れや胸部圧迫感、失神などを引き起こすのみでなく、突然死などのリスクも高い病気です。

ASの根本的な治療としては開胸による大動脈弁置換術(sAVR)がゴールドスタンダードです。
この手術はすでに術式が確立しており、安全で確実性の高い手術ですが、人工心肺装置を利用するため、全身の臓器にかなりの負担を強いることになります。
ご高齢の方や、癌のある方、開胸手術や放射線照射の既往のある方、維持透析中の方、肺や肝臓などに重症な疾患がある方はこの手術を行うことが困難な事が少なくありません。

そこで近年登場したのが、経カテーテル大動脈弁植え込み術(TAVI)です。
TAVIは、開胸を要さずにカテーテルを用いて生体弁を患者さんの心臓まで届けて植え込む手術です。

  1. 開胸手術ができなかった方への新たな選択肢
  2. 身体への負担が少なく、早期に社会復帰が可能

がメリットとされます。

日本では当初維持透析を受けていない患者さんに対してTAVIの実施がスタートしましたが、2021年2月からは維持透析を受けている患者さんにも適応が拡大しました。
しかしながら、維持透析療法を受けている日本人患者の心血管死亡率に対する有益性を示唆するデータは限られており、懸念点となっていました。
また、本邦におけるTAVI実施における周術期の透析低血圧など透析に関する各種パラメーターに関してもこれまで不明でした。
これらの内容を論文で評価しております。

方法

重症ASを有する血液透析患者さんに対し、TAVI(n=33)またはsAVR(n=25)を施行しました。
TAVIとSAVRの術後成績および周術期合併症(透析関連パラメータ[例:透析低血圧(IDH)]を含む)を比較しました。

結果

30日死亡率および1年死亡率はTAVI群とsAVR群でほぼ同じでした。
TAVI群における合併症としての永久ペースメーカー植え込みや、術後30日および1年間の脳卒中、出血、血管合併症を含むその他のイベントの発生率はsAVR患者と変わりませんでした。
IDHの発生率はsAVR後に増加しましたが(オッズ比(OR)=11.29[95%CI 1.29-98.89])、TAVIには関連しませんでした(OR=1.55[95%CI 0.24-9.94])。
75歳以上の患者さんにおいては、IDHの発生率はsAVR群で特に顕著でした(OR=15.75[95%CI 2.30-107.93])。
これらの群間で背景データ(年齢、EuroSCORE II、透析期間)に差があったため、傾向スコアマッチ解析を実施しましたが、TAVI群とSAVR群の1年間の複合イベント発生率に差はみられませんでした(p = 0.816)。

結論

TAVIは重症ASを有する日本人の血液透析患者さんに対して代替戦略を提供し、1年間の観察における合併症の発生率はsAVRとほぼ同等でした。

ただ、あくまでASに対する根本的な治療のゴールドスタンダードはsAVRです。
術後合併症発生に関してはより長期の追跡が必要であり、周術期の透析関連パラメーターに関しても、より多くの患者さんを評価する必要があるなど、この論文には多くの制限がありますが、TAVIを実施する透析患者さんの術前術後管理にあたる多くの医療者にとって少しでも参考になれば幸いです。

なお、論文作成にあたっては、東京ベイ・浦安市川医療センター腎臓・糖尿病・内分泌内科部長鈴木利彦先生や、元慶應大学准教授で現聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院救命救急センターで特任教授と顧問医を務められている林晃一先生には多大なご指導を賜り、ここに深謝の意を表します。

論文はこちら

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